形容詞・形容動詞
あはれなり
しみじみと心打たれる、趣深い / かわいそうだ、気の毒だ
形容動詞
説明感動の対象は喜怒哀楽すべてに及ぶ、古文で最重要の情緒語。現代語の「あわれ」のような同情・悲哀の意味に限定して覚えると誤読しやすい。
例文「月を見て、あはれなりと思ふ。」(月を見て、しみじみと趣深いと思う。)
イメージ月を見て「ああ、しみじみといいなあ」と思わずつぶやく感じ。悲しい場面だけでなく、美しい景色や心温まる場面でも使われる。
暗記のコツ「あはれ」は感動全般、「をかし」は知的な面白さ、と2大情緒語をセットで対比して覚える。文脈によって訳語(趣深い/気の毒だ)を選ぶ練習が必須。
をかし
趣がある、風情がある / こっけいだ、滑稽だ
形容詞
説明『枕草子』のキーワード。対象を明るく、知的に、客観的に「面白い」と評価する言葉。「あはれなり」がしみじみ型の感動なら、「をかし」は発見・観察型の感動。
例文「春はあけぼの、いとをかし。」(春は明け方が、たいそう趣がある。)
イメージ「これ、なかなかいいじゃない」と、少し距離を置いて感心しているような視線。清少納言が四季の風物を評するときによく使う。
暗記のコツ「あはれ」=主観的・情緒的な感動、「をかし」=客観的・知的な感動、と対で覚える。現代語の「おかしい(変だ)」に引きずられて滑稽の意味だけで覚えないよう注意。
いみじ
はなはだしい、たいそう(良い意味にも悪い意味にも使う)
形容詞
説明プラスにもマイナスにも使える「程度の強さ」を表す語。「いみじうめでたし(たいそう素晴らしい)」「いみじう心憂し(たいそうつらい)」のように、後ろの語で良し悪しが決まる。
例文「いみじうめでたきことなり。」(たいそう素晴らしいことである。)
イメージ「ものすごく」「めちゃくちゃ」のような、日本語の強調語に近いイメージ。中身がプラスかマイナスかは前後の文脈で判断する。
暗記のコツ「いみじ」だけでは意味が定まらない、「程度を強めるだけの語」と割り切って覚える。「いみじくも」の形で「うまいことに」という訳になる例外もあわせて確認。
ゆかし
見たい、聞きたい、知りたい / 心ひかれる、慕わしい
形容詞
説明何かに強く心が引き寄せられ、その対象をもっと知りたい・近づきたいという欲求を表す語。現代語の「奥ゆかしい(控えめで上品)」とは意味がずれるので要注意。
例文「その行方、いとゆかし。」(その行方が、とても知りたい。)
イメージ気になる人の噂を聞いて「もっと知りたいなあ、会ってみたいなあ」とそわそわする気持ち。好奇心と憧れが混ざったような感覚。
暗記のコツ現代語の「奥ゆかしい」から連想して「上品だ」と訳さないこと。「行きたい」の「ゆく」ではなく「〜したい」という願望の語だと意識して区別する。
つれづれなり
することがなく退屈だ、手持ち無沙汰だ
形容動詞
説明特にすることもなく、時間を持て余している状態を表す。『徒然草(つれづれぐさ)』の書名の由来にもなっている基本語。
例文「つれづれなるままに、日暮らし硯に向かひて」(することもなく退屈なのにまかせて、一日中硯に向かって)
イメージ雨の日に家でぼんやり過ごして「ああ、暇だなあ」とつぶやいている状態。積極的な悲しみというより、単調な時間への物足りなさ。
暗記のコツ書名『徒然草』を思い浮かべれば意味が定着しやすい。「つれづれなるままに(することもないままに)」という冒頭の一節とセットで覚える。
わりなし
道理に合わない、無理だ / どうしようもない、つらい / この上ない
形容詞
説明「割(理)+なし」で「理屈が通らない」が原義。そこから「無理だ」「どうにもならないほどつらい」、さらに「(理屈を超えて)この上ない」という強意の意味にも広がる、訳し分けが難しい語。
例文「わりなく泣きたまふ。」(どうしようもなくお泣きになる。)
イメージ説明のつかないほど強い状況、とイメージすると幅広い訳語がつながる。「わりなく美し(この上なく美しい)」のように強調としても使われる。
暗記のコツ「理屈(わり)が無い」という語源から、「筋が通らない→どうにもならない→(程度が)並外れている」という意味の広がりの流れで覚える。
あぢきなし
どうにもならない、つまらない、しかたがない
形容詞
説明努力してもどうにもならない、やるせない気持ちを表す語。物事に対する無力感や、やっても仕方がないという諦めのニュアンスを含む。
例文「あぢきなきことを嘆く。」(どうにもならないことを嘆く。)
イメージ頑張ってもどうにもならない状況に直面して、思わずため息をついてしまう感じ。前向きな諦めというより、どこか虚しさが漂う。
暗記のコツ「味気ない」という現代語と音が似ているので、そこから「つまらない、やるせない」というニュアンスを連想して覚えると定着しやすい。
うつくし
かわいらしい、いとおしい(現代語の「美しい」とは異なる)
形容詞
説明古文では主に小さいもの・幼いものへの愛情を表し、現代語の「美しい」のような容姿の美よりも「かわいい」に近い。『竹取物語』のかぐや姫の描写などで頻出。
例文「うつくしきもの、瓜にかきたるちごの顔。」(かわいらしいもの、瓜に描いた幼児の顔。)
イメージ小さな子どもや小動物を見て「かわいい」と自然に頬がゆるむ感覚。「うつくしきもの、瓜にかきたるちごの顔」(枕草子)のような使われ方。
暗記のコツ現代語の「美しい」にそのまま引きずられないよう、「うつくし=かわいい」と強く結びつけて覚え直す。対象が幼く小さいものであることが多い点も手がかりになる。
ありがたし
めったにない、めずらしい(感謝の意味は薄い)
形容詞
説明「有り+難し」で「存在することが難しい=めったにない」が原義。現代語の「ありがたい(感謝)」の意味で使われることはまれで、古文では基本的に「珍しい、貴重だ」の意味で用いられる。
例文「ありがたきものは舅にほめらるる婿。」(めったにないものは、舅にほめられる婿。)
イメージ宝くじに当たるくらいの確率の低さ、「そうそうあることではない」という希少性を表しているイメージ。
暗記のコツ漢字「有り難し」をそのまま「有ることが難しい」と読み解けば、「めったにない」という原義に自然にたどり着ける。
こころもとなし
気がかりだ、不安だ / 待ち遠しい、じれったい
形容詞
説明「心がしっかりと定まらず落ち着かない」状態を表し、不安や心配の意味と、待ち遠しくてじれったい意味の両方で使われる。
例文「待つ人の来ぬ夜は、こころもとなし。」(待つ人が来ない夜は、気がかりで落ち着かない。)
イメージ待ち合わせの相手がなかなか来なくて、そわそわしながら時計を何度も見てしまう感じ。心が定まらずふわふわしている状態。
暗記のコツ「心+もとなし(頼りない)」と分解し、「心が頼りなく落ち着かない」という原義から、不安・待ち遠しさの両方の訳につなげて覚える。
重要動詞
おどろく
目が覚める、はっと気づく(驚くの意味もあるが基本はこちら)
動詞(カ行四段)
説明古文では「はっと気づく・目を覚ます」の意味が基本で、現代語の「びっくりする」の意味で使われることは比較的少ない。和歌で「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」のように使われる。
例文「風の音にぞおどろかれぬる。」(風の音に、はっと気づかされた。)
イメージうたた寝していてふと物音で「はっ」と目を覚ます瞬間のイメージ。びっくりするというより、意識がふっと戻る感覚。
暗記のコツ「驚く」という漢字に引きずられず、まず「目が覚める/気づく」の意味を第一候補として思い浮かべる練習をする。
ののしる
大声で騒ぐ、評判になる(悪口の意味は薄い)
動詞(ラ行四段)
説明現代語の「罵る(悪口を言う)」とは異なり、古文では単に「大声を出す・騒ぐ」、転じて「世間で評判になる」という意味で使われることが多い。
例文「人々ののしりて渡る。」(人々が大声で騒ぎながら通り過ぎる。)
イメージお祭りやお祝い事で、みんなが口々に大声で盛り上がっている様子。ポジティブな賑わいの場面でもよく使われる。
暗記のコツ現代語の「罵る」のマイナスイメージを一旦捨てて、「大声で騒ぐ」というニュートラルな行為として覚え直す。
かしづく
大切に世話をする、大事に育てる
動詞(カ行四段)
説明特に親が子を、あるいは使用人が主人を、手厚く世話をし大切に扱うことを表す語。物語で箱入り娘が育てられる場面などによく登場する。
例文「この姫君をかしづき育てたまふ。」(この姫君を大切に世話して育てなさる。)
イメージお姫様を大勢の女房たちがかいがいしく世話をしている、そんな手厚い世話のイメージ。
暗記のコツ「かしずく」は現代語にも残る言葉(かしずかれる、など)なので、そのイメージ(大切に仕える)をそのまま古文にも当てはめればよい。
こころざす
目指す、目当てにする / 思いを寄せる、贈り物をする
動詞(サ行四段)
説明「心+指す」で、心をある方向に向けることが原義。目標に向かう意味と、人に対して思いを寄せる・贈り物をするという意味の両方で使われる。
例文「都をこころざして出で立つ。」(都を目指して旅立つ。)
イメージコンパスの針が一定の方向をぴたりと指し示すように、心がある目標や人に向かってまっすぐ向いているイメージ。
暗記のコツ現代語の「志す(目指す)」の意味に加え、「思いを寄せる相手に贈り物をする」という意味もあることをセットで覚えておく。
しのぶ
我慢する、こっそり〜する / (人を)慕う、恋しく思う
動詞(バ行上二段・四段)
説明表に出さないよう気持ちを抑える「忍ぶ」と、人を懐かしく思う「偲ぶ」の2系統の意味があり、文脈で判断する必要がある同音異義的な語。
例文「人目をしのびて通ふ。」(人目を避けてこっそり通う。)
イメージ人目を避けてこっそり会いに行く恋人たちの様子(忍ぶ恋)と、遠く離れた人を懐かしく思い出す気持ち(偲ぶ)の両方をイメージしておく。
暗記のコツ「忍ぶ(我慢・こっそり)」と「偲ぶ(懐かしむ)」は漢字は違うが同じ「しのぶ」なので、文脈で人物への感情の有無を見て判断する、と割り切る。
ちぎる
約束する、深い縁を結ぶ
動詞(ラ行四段)
説明単なる約束よりも重く、多くは男女の深い縁(将来を誓い合う関係)を結ぶことを表す語として使われる。
例文「後の世まで契りたまふ。」(来世までの深い縁をお約束になる。)
イメージ指切りげんまんのように、固く将来を誓い合う、そんな重みのある約束のイメージ。
暗記のコツ現代語の「契約」という言葉に残る「ちぎる」の音から、「固い約束・縁」というニュアンスを連想して覚える。
なやむ・わづらふ
病気で苦しむ / 思い悩む
動詞(マ行四段/ハ行四段)
説明どちらも「心の悩み」だけでなく「身体の病気」を表すことが多い点に注意。「なやむ」は苦しむこと全般、「わづらふ」は特に病気を患うことに使われやすい。
例文「重き病にわづらふ。」(重い病気で苦しむ。)
イメージただ気に病んでいるだけでなく、実際に寝込んでしまうくらいの体調不良をイメージすると古文らしい訳につながる。
暗記のコツ現代語の「悩む」は精神的な意味に限定されがちだが、古文ではまず「病気」の意味を疑ってみる、という優先順位で覚える。
ながむ
物思いにふけりながらぼんやり見る、眺める
動詞(マ行下二段)
説明単に景色を「見る」のではなく、何か思い悩みながらぼんやりと視線を向けている状態を表す。和歌の世界で恋の物思いとセットで頻出。
例文「花を見てながめ暮らす。」(花を見ながら物思いにふけって一日を過ごす。)
イメージ窓の外の雨をぼんやり見ながら、遠くにいる恋人のことを考えている、そんな物思いに沈んだまなざしのイメージ。
暗記のコツただの「見る」ではなく「物思い+見る」のセットだと意識する。「ながめ(眺め)」という名詞も同じく物思いを含んだ意味で使われる。
おぼす・おぼほす
お思いになる(「思ふ」の尊敬語)
動詞(サ行四段)/ 尊敬語
説明「思ふ」の尊敬語で、身分の高い人物の心情を表すときに使われる。地の文で天皇や貴人の心情描写に頻出する敬語動詞。
例文「帝、いといとほしとおぼす。」(帝は、たいそう気の毒だとお思いになる。)
イメージ身分の高い人物の胸の内を、語り手が一段へりくだった態度で描写している、そんな敬意のこもった言い方のイメージ。
暗記のコツ「思ふ」の尊敬語、と1対1で覚える。敬語動詞は誰の動作かを判定する重要な手がかりになるので、セットで覚えておくと主語判定に役立つ。
まもる
じっと見つめる、目を離さず見る
動詞(ラ行四段)
説明現代語の「守る(保護する)」とは異なり、古文では「じっと注視する」という視線の動作を表す語として使われることが多い。
例文「人の顔をまもりて物も言はず。」(人の顔をじっと見つめて何も言わない。)
イメージ何かから目が離せず、じっと見入ってしまっている、そんな集中したまなざしのイメージ。
暗記のコツ現代語の「見守る」に残る「じっと見る」というニュアンスを手がかりに、「保護する」ではなく「見つめる」の意味を優先して思い出す。
重要副詞
いと
たいそう、非常に
副詞
説明程度がはなはだしいことを表す、古文で最も頻出する程度副詞。「いと〜」の形で形容詞・形容動詞を強める。
例文「いと美しき花なり。」(たいそう美しい花である。)
イメージ「とても、すごく」にあたる古文版の強調語。文中に出てきたらとりあえず「たいそう」と訳してみる、というくらい基本の語。
暗記のコツ現代語の「いとおしい」に名残がある(もとは「いと+をし」)と知っておくと親しみやすい。まずはこの語から古文の程度副詞に慣れる。
つゆ(〜打消)
少しも〜ない、全く〜ない
副詞(呼応の副詞)
説明後ろに打消の語(ず・じ・まじ等)を伴って、「全く〜ない」という強い否定を表す。「つゆ」だけでは訳が完成せず、必ず打消とセットで探す必要がある。
例文「つゆ知らざりき。」(少しも知らなかった。)
イメージ朝露(つゆ)のようにほんのわずかな量さえも「ない」、と完全否定を強めているイメージ。
暗記のコツ「つゆ〜打消」で1セットの慣用表現だと覚え、「つゆ」を見たら文末の打消の語(ず、じなど)を必ず探しに行く習慣をつける。
さらに(〜打消)
全く〜ない、決して〜ない
副詞(呼応の副詞)
説明「つゆ」と同じく、打消の語とセットで「全く〜ない」という強い否定を表す呼応の副詞。現代語の「さらに(加えて)」とは意味が全く異なる点に要注意。
例文「さらに音もせず。」(全く物音もしない。)
イメージ「今さら言うまでもなく、全然違う」というくらい強い否定のニュアンス。現代語の「さらに」のプラスの累加のイメージは一旦捨てる。
暗記のコツ現代語の「さらに(加えて)」の意味を完全に忘れ、「さらに〜打消=全く〜ない」という古文専用のセット表現として覚え直す。
え(〜打消)
〜できない
副詞(呼応の副詞)
説明後ろに打消の語を伴い、不可能の意味「〜できない」を表す呼応の副詞。短い1音の語なので読み飛ばしやすく注意が必要。
例文「え出で立たず。」(出発することができない。)
イメージ「やろうとしたけれど、どうしても〜できなかった」という、意志はあるのに実現しなかったニュアンス。
暗記のコツ「え+打消=不可能」という短いセット表現を丸ごと覚える。「え言はず(言うことができない)」のような形で頻出する。
なかなか
かえって、むしろ / 中途半端に
副詞
説明予想と逆の結果になることを表し、「なまじ〜したばかりに、かえって〜」というニュアンスで使われることが多い。現代語の「なかなか(かなり)」とは訳がずれる。
例文「なかなか言はぬぞよき。」(かえって言わない方がよい。)
イメージ良かれと思ってやったことが、かえって裏目に出てしまった、という皮肉めいた展開のイメージ。
暗記のコツ現代語の「なかなか良い(かなり良い)」のイメージを一旦捨て、「予想が裏返る=かえって」という逆接的なニュアンスで覚え直す。
やがて
すぐに、そのまま(間を置かずに)
副詞
説明現代語の「やがて(しばらくして)」とは異なり、古文では「間を置かずすぐに」「そのまま続けて」という、時間差のなさを表す語。
例文「やがて出でぬ。」(すぐに出発した。)
イメージ「そのまま間髪入れずに」というスピード感のあるイメージ。現代語の「やがて」が持つ「しばらくすると」というゆったりした時間感覚とは逆。
暗記のコツ現代語の意味(しばらくして)と正反対の意味(すぐに)になる典型的な古今異義語として、対比しながら意識的に覚え直す。
ことに
特に、とりわけ
副詞
説明多くの物事の中で、ある一つを特別に取り立てて強調する語。「ことに(殊に)」という漢字表記からも、他と区別する特別さのニュアンスが読み取れる。
例文「ことに目立ちたる花。」(特に目立つ花。)
イメージたくさんある中から「これは特別に」と一つだけ指差して強調しているイメージ。
暗記のコツ漢字「殊に」を思い浮かべ、「殊勝」「殊更」のような現代語の「殊」の持つ「特別な」というニュアンスから連想して覚える。
すこぶる
たいそう、かなり(程度がはなはだしい)
副詞
説明「いと」と同じく程度の強さを表す副詞。現代語では「すこぶる機嫌がいい」のように残っており、古文でも同様に強調の意味で使われる。
例文「すこぶる心もとなし。」(かなり気がかりだ。)
イメージ「かなり、相当に」という強めの程度を表す言葉。「少し」と音が似ているが意味は正反対(わずかではなく、はなはだしい)なので注意。
暗記のコツ「すこし(少し)」と音が似ているため意味を弱めに誤読しやすいが、実際は「いと」に近い強い程度を表す語だと意識して区別する。
敬語
たまふ(四段)
お与えになる、なさる(尊敬語)
尊敬の補助動詞・本動詞
説明動作をする人物への敬意を表す最も基本的な尊敬語。本動詞としては「お与えになる」、補助動詞として動詞の後ろについて「〜なさる」の意味になる。
例文「帝、御衣をたまふ。」(帝が、お召し物をお与えになる。)
イメージ目上の人が何かを「してくださる」場面を思い浮かべるとイメージしやすい。地の文で使われれば、その動作主が敬意を払われる立場の人物だと分かる。
暗記のコツ「たまふ」が四段活用なら尊敬語、下二段活用(たまふる/たまへ)なら謙譲語、と活用の種類で意味が変わる点をセットで覚えておく。
たまふ(下二段)
〜ていただく、〜させていただく(謙譲語、主に会話文で自分の動作に使う)
謙譲の補助動詞
説明四段活用の「たまふ」とは逆に、話し手・書き手がへりくだって自分の動作を表すときに使う謙譲語。会話文・手紙文に多く現れる。
例文「かく思ひたまふる。」(このように思わせていただきます。)
イメージ自分の動作をへりくだって「〜させていただく」と表現する、丁寧な言い回しのイメージ。
暗記のコツ活用形(尊敬なら「たまへ・たまひ・たまふ・たまふ・たまへ・たまへ」の四段、謙譲なら下二段)を見分ける、という文法的な区別とセットで覚える。
はべり
あります、おります(丁寧語) / お仕えする(謙譲語)
丁寧語・謙譲語
説明会話文・手紙文で相手への敬意を表す丁寧語として使われることが多いが、本動詞として「お仕えする」という謙譲の意味も持つ。
例文「今宵の月、いとをかしくはべり。」(今夜の月は、たいそう趣がございます。)
イメージ「です・ます」にあたる、話し言葉の丁寧さを添える言葉のイメージ。会話文の文末によく現れる。
暗記のコツ現代語の「です・ます」に相当する丁寧語だとまず覚え、本動詞としての「お仕えする」の意味は文脈判断が必要だと理解しておく。
まゐる
参上する / 差し上げる(謙譲語)
謙譲語
説明「行く・来る」の謙譲語として、身分の高い人のもとへ「参上する」という意味と、「与える」の謙譲語として「差し上げる」という意味の両方を持つ。
例文「御前にまゐる。」(御前に参上する。)
イメージ目上の人のところへ、へりくだった態度で伺っていく、そんな低い姿勢のイメージ。
暗記のコツ「行く・来る」の謙譲語という基本用法をまず覚え、「与える」の謙譲(差し上げる)は追加の用法として後から足していく。
まかる
退出する、〜し申し上げる(謙譲語)
謙譲語
説明身分の高い人のもとから「退出する」という意味を持つ謙譲語で、「まゐる(参上する)」とちょうど逆方向の動作を表す。
例文「今は宮を出でてまかりなむ。」(今はもう御殿を出て退出しよう。)
イメージ偉い人の御前から、へりくだりながら下がっていく、そんな退出の場面のイメージ。
暗記のコツ「まゐる=参上する(来る)」「まかる=退出する(去る)」と、方向が逆の対になる語としてセットで覚える。
おはす・おはします
いらっしゃる(「あり・をり・行く・来」の尊敬語)
尊敬語
説明存在(いる)や移動(行く・来る)を表す動詞の尊敬語で、身分の高い人物の動作・存在を敬って表現するときに使う。
例文「かしこにおはします。」(あちらにいらっしゃる。)
イメージ「あそこに立派な方がいらっしゃる」というときの「いらっしゃる」にそのまま対応するイメージ。
暗記のコツ「あり・をり・行く・来」という複数の動詞をまとめて置き換えられる尊敬語だと理解し、動作の種類を問わず「いらっしゃる」と訳せることを覚えておく。
のたまふ
おっしゃる(「言ふ」の尊敬語)
尊敬語
説明「言ふ」の尊敬語で、身分の高い人物の発言を敬って表現するときに使われる基本的な敬語動詞。
例文「大臣、かくのたまふ。」(大臣が、このようにおっしゃる。)
イメージ目上の人が話しているのを、聞き手が敬意を持って「おっしゃっている」と受け止めているイメージ。
暗記のコツ「言ふ」の尊敬語、と1対1でシンプルに覚える。「きこゆ(申し上げる、謙譲語)」と対になる語として一緒に整理しておく。
きこゆ
申し上げる(「言ふ」の謙譲語) / 聞こえる、評判になる(基本の意味)
謙譲語・動詞
説明基本の意味は「聞こえる」だが、「言ふ」の謙譲語として「申し上げる」の意味でもよく使われる。文脈でどちらの意味かを判断する必要がある。
例文「かく聞こえたまふ。」(このように申し上げなさる。)
イメージ自分の発言を、目上の人に対してへりくだって差し出している、そんな控えめな話し方のイメージ。
暗記のコツ「のたまふ(尊敬・おっしゃる)」と「きこゆ(謙譲・申し上げる)」を、同じ「言う」動作の敬語としてペアで整理して覚える。
まぎらわしい多義語
おぼゆ
自然に思われる、感じられる / 似ている / 思い出される
動詞(ヤ行下二段)
説明意識的に「思う」のではなく、自然にそう感じられる・思われるというニュアンスを持つ語。「思ほゆ」が変化した形で、「覚える」という現代語の暗記の意味とは異なる。
例文「昔のことのおぼゆ。」(昔のことが自然に思い出される。)
イメージ自分の意志とは関係なく、心にふと浮かんでくる感情や記憶のイメージ。「〜ゆ」の部分に「自然と〜される」という受け身に近いニュアンスが含まれている。
暗記のコツ現代語の「覚える(暗記する)」という意味は古文にはほぼない、と一度リセットして、「自然に思われる」を第一候補にする。
あさまし
驚きあきれる、意外だ(良い意味にも悪い意味にも使う)
形容詞
説明予想外の事態に驚きあきれる気持ちを表す語で、必ずしも悪い意味だけでなく、良い意味で驚く場合にも使われる。現代語の「あさましい(見苦しい)」よりも意味の幅が広い。
例文「あさましきことかな。」(驚きあきれることだなあ。)
イメージ「まさかそんなことが!」と絶句してしまうような、意外な出来事に対する強いリアクションのイメージ。
暗記のコツ現代語の「あさましい(浅ましい、みっともない)」よりずっと中立的で、「驚き」の要素が中心だと覚え直す。
かなし
いとしい、かわいい / 心にしみて感じる(悲しいだけではない)
形容詞
説明現代語の「悲しい」だけでなく、「いとしい、かわいい」という愛情表現としても使われる語。漢字では「愛し」「悲し」の両方が当てられる。
例文「わが子のかなしきこと限りなし。」(わが子がいとしいことこの上ない。)
イメージ親が幼い我が子を見て、胸がきゅっとなるような、いとおしさと切なさが入り混じった感情のイメージ。
暗記のコツ「愛し」と「悲し」の両方の漢字が当てられることを知っておくと、悲しみだけでなく愛情の意味もあることを思い出しやすい。
すさまじ
興ざめだ、殺風景だ(現代語の「すごい」ではない)
形容詞
説明期待外れでがっかりする、場違いで興ざめな様子を表す語。現代語の「すさまじい(程度が激しい、すごい)」とは方向性が異なるので要注意の古今異義語。
例文「すさまじきもの、昼ほゆる犬。」(興ざめなもの、昼にほえる犬。)
イメージ盛り上がっていた場が、空気の読めない一言で一気に白けてしまう、そんな「シラケた」感じのイメージ。
暗記のコツ現代語の「すごい」という強調のニュアンスを完全に捨て、「興ざめ・場違い」という、むしろマイナスの落胆を表す語だと覚え直す。
はしたなし
きまりが悪い、中途半端だ、体裁が悪い
形容詞
説明どっちつかずで居心地が悪い、その場にそぐわず気まずい、という状態を表す語。現代語の「はしたない(下品だ)」とは意味がずれる古今異義語。
例文「人に見られてはしたなし。」(人に見られて気まずい。)
イメージ場違いなところに来てしまって、どうしていいか分からずそわそわしてしまう、そんな気まずさのイメージ。
暗記のコツ現代語の「はしたない(行儀が悪い)」から連想せず、「中途半端で居心地が悪い」という原義に置き換えて覚え直す。
なつかし
心ひかれる、慕わしい(過去を懐かしむ意味ではない)
形容詞
説明現代語の「懐かしい(過去を思い出す)」とは異なり、古文では「今、目の前にあるものに心ひかれる」という現在進行形の親近感を表す語。
例文「なつかしき人の声す。」(心ひかれる人の声がする。)
イメージ初めて会った人なのに、なぜか自然と心がひかれて親しみを感じてしまう、そんな「今」の感覚のイメージ。
暗記のコツ「過去を懐かしむ」のではなく「現在、心ひかれる」という時制の違いを意識して、現代語のイメージから切り離して覚え直す。
おろかなり
いい加減だ、不十分だ、並一通りだ(愚かとは少しニュアンスが違う)
形容動詞
説明「言ふもおろかなり(言葉で言い表すのも不十分だ→言葉では言い尽くせない)」のような慣用表現でよく使われ、単なる「愚か」よりも「不十分・並一通り」のニュアンスが強い。
例文「言ふもおろかなり。」(言葉で言うのも不十分なほどだ。)
イメージ「言葉では言い表せないほどすごい」ということを、あえて「言うのも不十分だ」と控えめに表現しているひねったイメージ。
暗記のコツ「言ふもおろかなり」という決まり文句を丸ごとセットで覚えておくと、単語単体で出会うより頻出パターンとして定着しやすい。
こちたし
うるさいほど多い、おおげさだ
形容詞
説明物が多すぎたり、噂や評判がうるさいほど広まっていたりする様子を表す語。「言痛し(ことい甚し)」が変化した語とされる。
例文「うはさこちたし。」(噂がうるさいほど多い。)
イメージみんなが口々に噂して収拾がつかなくなっている、そんな「うるさいくらい大げさ」な状況のイメージ。
暗記のコツ語源の「言(こと)+甚し(いたし)」、つまり「言葉が多すぎる」という成り立ちから、「うるさいほど多い」という意味を連想して覚える。
かしこし
すぐれている、優秀だ / 恐れ多い、もったいない
形容詞
説明単に「賢い」という知的な意味だけでなく、身分の高い人物に対する「恐れ多い」という畏敬の意味でも使われる、意味の幅が広い語。
例文「かしこき仰せなり。」(恐れ多い仰せである。)
イメージとても優れた人や、身分の高い方を前にして、思わず頭が下がってしまうような畏まった気持ちのイメージ。
暗記のコツ現代語の「賢い」だけに限定せず、「恐れ多い」という敬意の意味もセットで持っている、と意味の幅を広げて覚えておく。